日頃の生活習慣(過食・偏食、運動不足、喫煙・飲酒、ストレス 等)が大きく関係し、それらが引き金となって発症する病気を総称して生活習慣病といいます。
代表的な生活習慣病には、高血圧、糖尿病、脂質異常症、高尿酸血症などがありますが、これらの疾患はいずれも自覚症状が出にくいという特徴があります。
ただ放置を続けると動脈硬化を促進させます。
これによって血管に弾力性がなくなり肥厚化していくほか、血管内部は脆弱化していき、血管狭窄や血管閉塞が起きるようになれば、脳梗塞や脳出血などの脳血管障害(脳卒中)や虚血性心疾患(狭心症、心筋梗塞)、閉塞性動脈硬化症など重篤な合併症を発症することもあるので注意が必要です。
このように命にも影響しかねない重い合併症の発症リスクをできるだけ低減させるためには、重症化するまでに生活習慣病に罹患している、あるいはその予備群であることに気づいて治療や予防を行う必要があります。
そのためには定期的に健康診断を受診していくことが重要です。
その後、健診の結果を見た医師から生活習慣病に関係する数値(血圧、血糖値、コレステロール、中性脂肪、血清尿酸値 等)に対して異常を指摘された場合は、何の症状がないという場合でも一度当院をご受診ください。
必要な場合は、血液検査や血圧測定、尿検査、心電図などを行います。
治療方針について
その結果、治療や予防が必要となれば、生活習慣の見直しから始めていきます。
主な内容としては、食生活の改善があります。
内容としては、栄養バランスのとれた食事メニュー、減塩、高脂肪食を控えるなどしていきます。
また適度な運動(息が弾む程度の強さで1回30分程度のウォーキングや軽度なジョギング等の有酸素運動)を日々の生活に取り入れることは、血圧、血糖値、中性脂肪、コレステロールなどの数値を改善させます。
このほか、喫煙者は禁煙を実践し、お酒を飲む方は節酒に努めるようにしてください。
生活習慣の見直しだけでは、なかなか数値が改善しないという場合は、薬物療法も併行するなどして重症化のリスクをできるだけ避ける治療も行っていきます。
主な生活習慣病
高血圧
血圧とは、心臓から血管を通じて各器官へと血液が送られていく際に血管壁に加わる圧力のことですが、この数値が基準とされる数値を慢性的に超えていると判定されると高血圧と診断されます。
具体的な数値ですが、外来時の血圧測定で収縮期血圧(最高血圧:心臓が全身に血液を送る際に最も縮んでいる状態)が130 mmHg以上、もしくは拡張期血圧(最低血圧:心臓が拡張して次に送る血液を蓄えている状態)80 mmHg以上の場合となっています。
発症の原因は2つありますが、日本人の全高血圧患者様の8~9割は、原因がはっきり特定しない本態性高血圧です。
なおこの場合は、遺伝的要因(高血圧になりやすい体質)や不摂生な生活習慣(過食、運動不足、喫煙、多量の飲酒、ストレス 等)などが関係しているのではないかといわれています。
またもうひとつのタイプは、病気や薬物の影響など原因がはっきり特定できる二次性高血圧です。
原因疾患としては、腎実質性高血圧や腎血管性高血圧等の腎臓疾患、原発性アルドステロン症やクッシング症候群、褐色細胞腫等による内分泌疾患、睡眠時無呼吸症候群などが挙げられます。
さらに薬剤の使用によって引き起こされる高血圧(薬剤誘発性高血圧)の原因としては、ステロイド、NSAIDs、漢方薬の甘草などが挙げられます。
主な症状ですが、慢性的に高血圧な状態になっても自覚症状がみられることは、ほぼありません(血圧がかなり高い状態にあると、頭痛やめまい等が起きることはあります)。
ただ放置を続けると動脈硬化を促進させ、血管内部が脆弱化し、血管狭窄や血管閉塞が起きることがあります。
すると、脳血管障害(脳梗塞、脳出血 等)、虚血性心疾患(狭心症、心筋梗塞)、心不全、腎臓病(腎硬化症、腎不全)など重度の合併症を引き起こすことがあるので、注意が必要です。
治療について
血圧をコントロールし、重度の合併症のリスクを下げることが治療の目的となります。
そのためには、まず日頃の生活習慣を見直します。
具体的には、減塩(1日の塩分摂取量を6g未満)、バランスのよい食事(魚や野菜中心)に努める、肥満の方は減量する、運動不足の解消、喫煙者は禁煙の実践、お酒を飲む方は節酒といったものです。
それでも血圧の数値が目標値まで下がらない場合は、併行して薬物療法(降圧剤の使用)も行います。
降圧剤は、種類がいくつかあります(ARB、ACE阻害薬、カルシウム拮抗薬、利尿薬、ARNI 等)が、患者様の血圧の状態によって、ひとつのみの場合もあれば、いくつか組み合わせることもあります。
なお服薬については、必ず医師の指示に従ってください。
糖尿病
血液中に含まれる血糖(ブドウ糖)は、脳などのエネルギー源となるものですが、細胞に取り込まれることでその役割を果たすようになります。
そのためには、膵臓から分泌されるホルモンの一種であるインスリンの働きが欠かせないのですが、何らかの原因でこれが作用不足を起こすと、細胞に取り込まれず、血糖は血液中で異常に増えていきます。
そして、血糖値(血液中に含まれるブドウ糖の濃度)が基準値を慢性的に超えていると判定されると糖尿病と診断されます。
発症の有無は血液検査によって判明しますが、血糖値とHbA1cの数値を調べていきます。 具体的な診断基準は、以下の通りです。
①血糖値の数値:早朝空腹時血糖値が126mg/dL以上、もしくは75g経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)2時間値が200mg/dL以上、あるいは随時血糖値が200mg/dL以上
②HbA1cの数値:6.5%以上
- ①と②の両方とも該当すれば糖尿病と診断。①もしくは②のみ該当する場合は、糖尿病型と診断され、要再検査。
前回①の糖尿病型で、再検査の結果が、両方該当、もしくは①か②のみの糖尿病型であったという場合は糖尿病と診断。
前回②の糖尿病型で、再検査の結果が、両方該当、もしくは①のみの糖尿病型であれば糖尿病と診断。
前回も今回も②のみの糖尿病型の場合は、3~6ヵ月後に再検査(前回①の糖尿病型で再検査では両方該当しなかった方も含む)。
糖尿病の種類について
糖尿病のタイプは大きく2つに分類されます。
ひとつは、インスリンを生成、分泌する膵臓のβ細胞が自己免疫反応などによって破壊され、インスリンがほぼ体内で分泌されなくなる1型糖尿病です。
若い世代の患者様が多いのも特徴ですが、成人以降に発症する方もいます。
もうひとつの2型糖尿病は、全糖尿病患者様の9割以上を占めるタイプで、主に遺伝的要因(糖尿病に罹患しやすい体質)に不摂生な生活習慣が組み合わさるなどして起きるのではないかといわれています。
この場合の膵臓というのは疲弊しており、インスリンの分泌量の低下(インスリン分泌不全)やインスリンの分泌量は十分でも効きが悪い状態(インスリン抵抗性亢進)となっています。
上記以外にも、何らかの病気(膵臓疾患、内分泌疾患 等)や薬剤(ステロイドの長期投与 等)の影響、遺伝子異常などによって発症する糖尿病もあります。
また妊娠時に胎盤から分泌されるホルモンによってインスリンの効きが悪くなって、高血糖状態になる妊娠糖尿病というのもあります。
症状に関してですが、発症初期は自覚症状が出にくいとされ、血糖値が常に高い状態が続くようになると、多飲・多尿、異常な喉の渇き、体重減少、全身の倦怠感などの症状がみられるようになります。
合併症に注意
さらに放置を続ければ、やがて血管障害を引き起こすのですが、とくに細小血管が集中する網膜、末梢神経、腎臓では合併症のリスクが高くなります。
これを糖尿病3大合併症(腎症、網膜症、神経障害)といいます。
また太い血管では動脈硬化を促進させるので、脳血管障害(脳梗塞 等)や虚血性心疾患(狭心症、心筋梗塞)、閉塞動脈硬化症などの病気のリスクも上昇させます。
治療について
血糖値をコントロールし、合併症のリスクを低減させることが治療の目的となります。
1型糖尿病の患者様は、インスリンが体内で圧倒的に不足している状態なので、インスリンを注射によって注入していきます。
一方2型糖尿病の患者様は、少ないながらもインスリンは分泌されているので生活習慣の見直しから始めていきます。
食事療法としては、膵臓を酷使しないためにも食べ過ぎない(1日あたりのカロリー摂取量を厳守する)、栄養バランスのとれた食事に努める(魚や緑黄色野菜等を中心にする)などしていきます。
またインスリンの働きを活性化させるために運動(中強度の強さで1回30分程度のウォーキング等の有酸素運動をできれば毎日)も行います。
上記の生活習慣の改善だけでは、血糖値が十分に下がらないとなれば、薬物療法も併せて行います。
この場合、経口血糖降下薬として、インスリンの分泌を促進させる薬(SU剤、グリニド系薬 等)やインスリンの効きを改善させる薬(ビグアナイド薬、チアゾリジン薬 等)などを使用していきます。
上記の薬物療法でも効果が乏しいとなれば、1型糖尿病と同様にインスリン注射となります。
脂質異常症
血液中に含まれる脂質のうち、LDL(悪玉)コレステロールと中性脂肪(トリグリセライド)が異常に増えている(かつては高脂血症と呼ばれた)、あるいはHDL(善玉)コレステロールが必要以上に少ない状態にあると脂質異常症であると診断されます。
発症の有無は血液検査によって判明しますが、具体的な診断基準については以下の通りです。
- 高LDLコレステロール血症
- LDLコレステロールの数値が140mg/dL以上
- 低HDLコレステロール血症
- HDLコレステロールの数値が40mg/dL未満
- 高トリグリセライド血症
- 中性脂肪(トリグリセライド)の数値が150mg/dL以上
自覚症状はなく、病状を進行させやすい
この脂質異常症は、発症しても自覚症状は出にくいといった特徴があります。
したがって、多くの患者様は健康診断(血液検査)の結果を見て気づくケースが大半です。
ただそれでも無症状なので放置を続ける方も少なくありません。
そのまま何もしなければ、上記に挙げた3つのタイプのどれであったとしても、血管にLDLコレステロールは蓄積していくようになります。
この蓄積というのは、動脈硬化を促進させ、さらに無治療な状態が続けば、血管狭窄や血管閉塞を招き、脳血管障害(脳梗塞、脳出血 等)や虚血性心疾患(狭心症、心筋梗塞)など重い合併症を発症することになります。
発症の原因については、遺伝的要因(家族性高コレステロール血症)や何らかの基礎疾患によって引き起こされることもあります。
そのほかにも、肥満、食べ過ぎ(過食)、多量の飲酒、喫煙、慢性的な運動不足、ストレスといったことが関係していることもあります。
治療について
先にも挙げたように脂質異常症には3つのタイプがありますが、いずれのタイプであってもLDLコレステロールの数値を下げることが目的になります。
なぜならこれによって、HDLコレステロールや中性脂肪も数値の改善にもつながっていくからです。
治療内容としては、まずは日頃の生活習慣を見直します。
食事療法では、卵、レバー、魚卵、肉の脂身などコレステロールを多く含む食品は控え、食物繊維が豊富な食品(きのこ、海藻、豆類)や青魚などは積極的に摂取します
また中性脂肪の数値が高めの場合は、糖分やお酒も控えてください。
また適度に運動(息が弾む程度の有酸素運動、ウォーキングであれば1回30分以上)をしていくことは、HDLコレステロールを増やし、中性脂肪(トリグリセライド)の数値を下げる効果が期待できますので日常生活に取り入れるようにしてください。
これらのみでは効果が乏しいとなれば、併せて薬物療法も行われます。 この場合は、LDLコレステロールの数値を下げる、スタチン系の薬剤を使用していきます。
それだけでは効果が十分でないという場合は、フィブラート系薬剤などほかの薬物療法も用いられることもあります。
高尿酸血症
血液中に存在する尿酸と呼ばれる物質が必要以上に増えている状態で、血清尿酸値(血液中に含まれる尿酸の濃度)が7.0mg/dL以上と判定されると高尿酸血症と診断されます。
そもそも尿酸とは、プリン体が体内で分解された後に発生する老廃物のことで、腎臓から尿と一緒に排泄されます。
ただうまく排泄されずに体内で蓄積されるようになると様々な症状が現れるようになります。
痛風について
例えば血液中の尿酸は水に溶けにくい性質で、高尿酸血症になると尿酸は結晶化していきます。
その状態で関節に尿酸が溜まり、結晶が剥がれ落ちるようになると、それを異物であると認識した白血球が攻撃を開始し、関節(とくに足の親指)に激痛や腫れがみられるようになります。
これを痛風発作(痛風)といいます。
同発作は発症から24時間が痛みのピークで、徐々にやわらいでいき、1週間後には何もなかったかのように治まりますが、尿酸値を下げない限りは再発のリスクは高まります。
尿酸値の高い状態を放置し続ければ、痛風発作以外にも、痛風結節(関節の周囲にこぶ状のしこり)、尿路結石、腎臓障害(痛風腎)のほか、動脈硬化も促進させるので、脳血管障害(脳梗塞 等)や虚血性疾患(狭心症、心筋梗塞)の併発リスクも上昇するようになります。
男性の患者様が多い
なお高尿酸血症による自覚症状というのは現れることはなく、痛風などの合併症を発症してから気づくことがほとんどで、患者様の多くは男性です。
ちなみに30代以上の男性の3割程度の方は高尿酸血症を発症しているのではないかといわれています。
発症の原因としては、尿酸が過剰に生成されてしまう尿酸生成過剰型(プリン体を多く含む食品の過剰摂取、激しく無酸素運動をする、白血病等の造血器疾患、遺伝的な代謝疾患 等)をはじめ、腎臓から尿と一緒に排泄される尿酸の量が少ないことで尿酸値が上昇する尿酸排泄低下型(腎機能低下、脱水症状、尿崩症、アルコールの過剰な摂取、利尿薬等の薬剤の使用などが原因)のほか、これらのタイプが組み合わさった混合型(肥満の方によくみられる)というのもあります。
治療について
高尿酸血症の治療では、まず生活習慣の見直しから始めます。
具体的には、体内の尿酸を体外へ排泄されやすくするため、1日の尿量を2リットル以上とします。
またプリン体を多く含む食品(レバー、大正エビ、魚の干物 等)やアルコールは控え、栄養バランスがしっかりとれた食事を心がけます。
さらに運動も尿酸値を下げる効果があるので取り入れてください。
ただし、効果があるのは、適度な有酸素運動(ジョギング、ウォーキング、水泳 等)で、無酸素運動は逆に尿酸値を上昇させます。
そのため、運動を開始する際は、一度医師に相談するようにしてください。
なお高尿酸血症によって、痛風など何らかの症状があるという場合は、薬物療法も併行していきます。
患者様の高尿酸血症のタイプによって、尿酸生成抑制薬(アロプリノール、フェブキソスタット)や尿酸排泄促進薬(ベンズブロマロン、プロベネシド)が用いられます。
ちなみに痛風発作が起きている状態では、上記の薬は使用しません。
痛風による痛みや炎症が治まってから使用するようにします。