肝臓内科

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肝臓は人体の中では最大の臓器で、およそ3,000億個の細胞からなり、重さは1㎏を超えます。
ここでは、食物の消化吸収を助ける胆汁の作成、身体に有毒とされる物質を分解する解毒、脳のエネルギー源でもあるブドウ糖を貯蔵するなどの働きをしています。

このように様々な役割を果たしている臓器なのですが、何らかの病気が起こったとしても自覚症状が出にくいので病状を進行させやすく、気づいたときには重症化していたという患者様も少なくありません。

受診がすすめられる方

この肝臓で起きたとされる病気、肝炎、脂肪肝、肝硬変、肝がんなどが疑われる患者様を対象に診察、検査、治療を行うのが肝臓内科です。
当診療科は、一般社団法人日本肝臓学会 肝臓専門医である担当医が診療を行います。

自覚症状が出ないという場合でも、健診結果の数値を見た医師から肝機能の数値(AST・ALT・γ-GTP)に異常があると指摘を受けた方は、一度ご受診ください。

またお酒をよく飲む方をはじめ、生活習慣病(糖尿病、高血圧、脂質異常症 等)に罹患されている方、食欲不振、全身の倦怠感や疲労感のある方、黄疸の症状(皮膚や白目が黄色っぽい)がみられる方などにつきましても、肝臓内科にてご相談ください。

検査としては、血液検査で肝機能の数値(AST・ALT・γ-GTP・ALP・ビリルビン)を調べることもあれば、超音波検査(エコー)で膵臓の状態(形、病変などはないか 等)を確認したりします。

さらに詳細な検査が必要となれば、CTやMRIといった画像検査、肝生検(肝臓の組織を針で採取し、顕微鏡で詳しく調べていく)も行っていきます。

肝臓内科で扱う代表的な疾患

ウイルス性肝炎(B型・C型 等)、脂肪肝(アルコール性脂肪肝、非アルコール性脂肪性肝疾患:NAFLD)、肝硬変、肝がん など

主な肝臓疾患

脂肪肝

脂肪肝(MASLD:代謝関連脂肪性肝疾患)とは

肝臓の細胞(肝細胞)の中に脂肪がたまり、肝臓全体の 5%以上 を脂肪が占める状態を「脂肪肝」といいます。
健康な肝臓でもわずかに脂肪は含まれていますが、過剰にたまると炎症や線維化(硬くなる変化)を引き起こし、肝硬変や肝がんへ進行することがあります。

原因と分類

脂肪肝の原因は大きく分けて2つです。

1. アルコール性脂肪肝(ALD)
多量の飲酒によって肝臓に脂肪がたまるタイプです。
2. 代謝関連脂肪性肝疾患(MASLD)
肥満、糖尿病、脂質異常症、高血圧などの生活習慣病が関係して起きるタイプです。
以前は「非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)」と呼ばれていましたが、2023年に国際的な専門家会議(AASLD, EASL, 日本肝臓学会など) により、より実態に即した名称として「MASLD(Metabolic dysfunction-associated steatotic liver disease)」へ変更されました。
MASLDの中でも段階があります
単純性脂肪肝(simple steatosis)
脂肪がたまっているだけで炎症や細胞の損傷が少ない状態です。
代謝関連脂肪性肝炎(MASH:Metabolic dysfunction-associated steatohepatitis)
脂肪の沈着に加えて、炎症や肝細胞の障害・線維化が起きている状態です。
放置すると 肝硬変や肝がん のリスクが高まります。

自覚症状が出にくい病気です

脂肪肝の多くは、進行するまで自覚症状がほとんどありません。 ときに次のような軽い症状がみられることがあります。

  • 疲れやすい(易疲労感)
  • 体がだるい
  • 右上腹部(みぞおちの右側)の違和感

さらに進行して肝硬変に近づくと、

  • 黄疸(皮膚や白目が黄色くなる)
  • お腹に水がたまる(腹水)
  • 全身のむくみ

などが現れます。

診断と治療

診断には、血液検査、超音波(エコー)検査、CT、MRI、必要に応じて肝生検などを組み合わせます。
最近では 肝臓の硬さや脂肪量を非侵襲的に評価できる検査(FibroScan® など) も普及しています。
治療の基本は生活習慣の改善です。

  • 適正体重への減量(体重の5〜10%減で改善効果)
  • 食事内容の見直し(糖質・脂質の摂りすぎを控える)
  • 有酸素運動や筋トレの習慣化
  • 糖尿病・脂質異常症・高血圧の適切なコントロール

必要に応じて薬物治療が検討されることもあります。

最新の考え方(2024年時点)

  • 「脂肪肝」は単なる肝臓の問題ではなく、心血管疾患や糖尿病と深く関係する“代謝の病気” として捉えられています。
  • 日本肝臓学会も2024年に「MASLD/MASH」という用語を正式に採用し、診断・治療ガイドラインを改訂中です。
  • 肝臓だけでなく、体全体の代謝を整えることが予防・治療のカギとなります。

参考文献(一次情報)

  • AASLD, New MASLD and MASH Nomenclature Consensus Statement, 2023
  • EASL-AASLD-ALEH-APASL Joint Consensus, Steatotic Liver Disease (SLD) Framework, 2024
  • 日本肝臓学会:「MASLD/MASHに関する見解」(2024年4月発表)
  • Rinella ME et al., J Hepatol. 2023; 79(5):1170-1186.
  • 日本肝臓学会 編『肝疾患診療ガイド2024』

ウイルス性肝炎

肝細胞に炎症が起きている状態が肝炎で、その原因の多くはウイルスの感染によるものです(ほかには、自己免疫疾患や薬剤の影響 など)。
一口にウイルスと言いましてもA~Eまで5種類ありますが、日本では主にB型とC型のウイルスの感染による肝炎が大半です。

感染経路に関してですが、B型で成人であれば、血液感染(注射針の針刺し事故 等)や体液感染(性交渉)、乳幼児期であれば母子感染によるケースが多くみられます。
C型は血液感染が中心で、この場合は注射針の使い回しや医療での針差し事故もありますが、原因不明の患者様も少なくないです。

主な症状ですが、B型の患者様で成人以降に発症した患者様は、急性肝炎を発症します。
症状は出ないことも多いですが、ある場合は、発熱、全身倦怠感、黄疸、食欲不振などの症状が出ます
B型の慢性肝炎は、母子感染によることが多く、乳幼児のうちに感染すれば9割を超える患者様が持続感染するのですが、そのうち慢性肝炎の状態に至るのは15%程度の方としています。

一方のC型肝炎は感染すると急性肝炎を発症します。
主な症状は、全身の倦怠感、食欲不振、発熱といったものですが、C型肝炎の患者様で急性肝炎を発症した方の7割近くの方が慢性肝炎に移行していきます。

治療について

B型肝炎による急性肝炎であれば、多くは安静にするだけで自然と回復するようになりますが、まれに劇症肝炎(急激に病状が進行、黄疸、発熱、嘔吐・吐き気等がみられる)を発症することがあります。
この場合は、全身管理のうえ、原因に対する治療などが必要となります。

またB型の慢性肝炎であれば、抗ウイルス療法として、ペグインターフェロンや核酸アナログ製剤などが用いられます。

C型肝炎につきましても急性であれば、安静にするなどしていきます。
その後、慢性であることが確認された場合は、抗ウイルス薬による治療が行われますが、場合によってはインターフェロンによる治療が検討されることもあります。

肝硬変

肝臓に慢性的な炎症が続くと、同細胞の破壊と再生が繰り返されるのですが、それによって線維化してしまい、肝機能が低下している状態のことを肝硬変といいます。

慢性肝炎の原因としては、ウイルス性(B型、C型 等)をはじめ、アルコール性、非アルコール性、自己免疫性、薬剤性などがあります。

なおこの病気は、代償性と非代償性に分類されます。
前者は肝臓の機能そのものは維持されているので、自覚症状は出にくいとされています。
一方の後者である非代償性は、肝機能が維持できないほど低下した状態になっており、黄疸、腹水による腹部の膨満感、全身のむくみ、易疲労感、手のひらが赤い、食欲不振がみられます。
さらに非代償性によって合併症が併発されると吐血や下血などの消化管出血(食道・胃静脈瘤)、脳正肝症による意識障害等、特発性細菌性腹膜炎による腹痛や発熱といった症状もあります。

治療について

肝硬変の状態が代償期であれば、原因疾患の治療(ウイルス性肝炎であれば、抗ウイルス薬の使用 等)のほか、肝庇護療法や食生活の改善などが行われることもあります。

また肝臓が非代償期の状態にある患者様については、合併症による症状を抑えるための治療となります。
腹水であれば、塩分の摂取を制限したり、体内から塩分を排泄しやすくするために利尿薬を使用したりします。
さらに肝性脳症を発症している場合は、安静にすること以外にも、分岐鎖アミノ酸製剤の使用、低たんぱく食を実施する等を行います。
このほか、食道・胃静脈瘤であれば、内視鏡を用いた治療が選択されることもありあます。

肝がん

肝臓に発生した悪性腫瘍を総称して肝がんといいます。
肝臓のがんは、転移性と原発性に分かれますが、別の組織から肝臓にがんが転移してきた転移性がんが圧倒的に多いです。
なお肝臓から発生する原発性肝がんについては、肝細胞から発生する肝細胞がんの患者様が圧倒的に多く(9割以上を占める)、そのほかでは肝内胆管の上皮より発生するがんもあります(肝内胆管がん)。

発症の原因ですが、転移性の肝がんについては、大腸がんや膵がん、胃がん、肺がんなどから肝臓に転移しての発生となります。
また原発性肝がんに関しては、C型肝炎やB型肝炎等が原因となることが多く、肝内胆管がんの原因については、はっきり特定されていません。

よくみられる症状ですが、発症初期から自覚症状が出ることはありません。
病状が進行することで、腹部にしこりやハリ、痛み、圧迫感などがあります。
また肝硬変もみられているのであれば、黄疸や倦怠感、食欲不振、便秘や下痢といった消化器症状などが現れるようになります。

治療について

腫瘍が単発~3個程度であり、大きさが3㎝程度のものであれば、がん細胞を外科的に除去する手術療法が行われますが、場合によっては焼灼療法が検討されることもあります。

またがんによる腫瘍が多数ある場合は、肝動脈塞栓療法(がんに栄養を送る動脈をカテーテル等で用いて塞ぐなどして除去していく)が選択されることもあれば、化学療法や分子標的治療薬を用いることもあります。